力率改善回路 PFCのシミュレーション
今回は力率改善回路、Power Factor Correction(以下PFC )回路について、簡単な解説とScideamを使ったシミュレーションを行います。
シミュレーション可能なサンプル回路モデルもダウンロード可能ですので、是非ご利用ください。
それでは始めましょう。
PFC回路とは
PFC回路は電源回路で発生してしまう入力電圧と出力電流の位相差を無くし、また高調波を抑制して力率を1になるように改善する回路です。
なお、高調波抑制は国際規格IEC61000-3-2によりクラス分けおよび最大許容高調波電流が規定されており、これを満たすためにPFC回路は搭載されます。
位相差が生まれるのはなぜ?
一般的な電源回路では交流入力を直流出力にするため、平滑化コンデンサを持っています。
コンデンサの電圧は、充電された電荷量によって決定されます。
この電荷量は電流の積算値で表すことができます。
すなわち、コンデンサにかかる電圧は電流の積分値となります。
そのため、入力電圧が正弦波である場合、その積分値である電流は90度位相が進むことになります。
位相差があるとどうなるの?
交流電源の場合、電力は、有効電力、無効電力、皮相電力の3出力に分けることができます。 3つの電力には次のような関係があります。
有効電力:負荷で消費される電力
無効電力:負荷で消費されない電力
皮相電力:交流電源から送り出される電力
ここで図にでてくるθが位相差となります。また、cosθが力率となります。
従って、力率が1の場合、つまり位相差θが0の場合、
皮相電力はすべて有効電力になります。
高調波成分の影響
スイッチング電源では入力の交流電圧平滑用にコンデンサが使用されています。
図のようなスイッチング電源回路の場合、入力電源から電流が流れ出るのは、コンデンサCが充電されているタイミングとなります。
したがって入力電流と入力電圧の関係は図のようになります。
図からわかるように、入力電流はパルスのような正弦波でない高周波成分を含んだ電流になってしまいます。
力率は電圧と電流が位相の無い正弦波の時1となるので、正弦波でない電流が流れる場合にも、力率は低下してしまいます。
すなわち、PFC回路は位相差だけでなく、高調波成分もなくし、入力電圧の正弦波と同相の電流を流すことを目的としています。
PFC回路による力率改善方式
PFC回路では大きく分けてパッシブ方式、部分スイッチング方式、スイッチング方式の3つの改善方式があります。
パッシブ方式 | 電源に直列にリアクトルを挿入して交流電源を直流化して力率を改善します |
部分スイッチング方式 | パッシブ方式のリアクトル挿入部にスイッチを追加することで、パッシブス方式では電流の流れなかった区間でも電流を流すことで力率を改善します |
スイッチング方式 | ダイオードブリッジと負荷の間に昇圧チョッパ回路を挿入し、スイッチによって電流を制御して入力電圧と位相を合わせることで力率を改善します |
またスイッチング方式では次の3つのスイッチング方法が存在し、用途に応じて使用する制御方法を変更します。
CCM (Continuous Conduction Mode) | スイッチング用リアクトルへの電流を連続して通電する連続通電モード |
CRM (Critical Conduction Mode) | スイッチング用リアクトルへ流れる電流がゼロのときスイッチングデバイスをターンオンする臨界通電モード |
DCM (Discontinuous Conduction Mode) | 通電電流がいったん途切れる不連続通電モード |
以上がPFC回路の力率改善方式となります。
それでは次はPFC回路について、シミュレーションを行って実際にどのように波形が改善されるのか確認していきましょう。
回路シミュレーションしてみる
今回はスイッチング方式の臨界通電モードの回路をサンプル回路として使用します。
シミュレータはScideam(サイディーム)を使用し、サンプルモデルは本文最後からダウンロード可能です。
サンプル回路では臨界通電モードを再現するためにトリガー素子を使用しています。
Scideamでは解析の実行周期としてメイン周期と呼ばれる周期を持っています。このメイン周期を一つの区切り区間として解析が行われます。
トリガー素子は素子の入力差電圧が負から正に変わった時、もしくは素子に設定したトリガー時間になった時メイン周期を次のメイン周期へ更新させるという挙動を行います。
これにより、規則的なメイン周期でスイッチのオンオフを行うのではなく、トリガー素子によって可変的にスイッチングを行うことができるようになります。
サンプル回路では数値誤差による誤動作を避けるため非常に小さい電圧源Veps(100u[V])をトリガー素子に接続しており、この電圧とリアクトルLの内部抵抗RLの電圧を比較することで、リアクトルLに流れる電流が0[A]になった瞬間にトリガーを作動させています。
トリガー素子が作動するとメイン周期が更新され、これによりスイッチを初期状態(オン状態)にしています。
上記を踏まえた上で早速、サンプル回路をシミュレーションしてみましょう。
まずはwaveform解析で50[msec]シミュレーションを実行してみてください。
まずは全体像をみてください。
図のように入力電流が正弦波に近い形となっており、位相差も軽減されて高い力率を持っていることを確認することができると思います。
図からリアクトルLに流れる電流が0[A]となるタイミングでスイッチがオンになっており、臨界通電モードが実装できてきることが確認できます。
以上のように、Scideamを使用することでPFC回路の力率改善の効果の確認や、通電モードなど制御が意図通りにできているかなどを簡単に確認することができます。
まとめ
- PFC回路とは入力した電力を有効に使用するために力率を改善させるための回路です。
- 力率は入力電圧と電流が位相差のない正弦波の時最も高くなり、そのとき、すべての皮相電力を有効電力とすることができます。
- 一般的な電源回路には、交流入力を直流入力にするため平滑コンデンサが挿入されており、これにより、入力電圧と入力電流に位相差が発生してしまうことや、入力電流がパルスのような高調波を含む波形になってしまうことで力率が下がります。
- PFC回路では、交流電源側にリアクトルLを挿入し直流化させる方式や、スイッチングによって電圧・電流をコントロールすることで力率の改善を行います。
今回はPFC回路の中でもスイッチング方式の臨界通電モードについてのサンプル回路を紹介しました。
他の方式やスイッチング方式の別の制御モードについても、サンプル回路をベースに作成できますので、是非確認してみてください。
本モデルは、パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で動作可能です。
本記事のモデルは以下からダウンロードしてください。
本文監修:中原正俊、中村創一郎