GaNモデルのシミュレーション比較
第1回 スイッチング速度の比較
昨年11月末にリリースしたScideam(サイディーム)のPower Paletteオプションでは、SiCやGaNなどの次世代半導体モデルのシミュレーションが可能になりました。
今回の記事ではScideamのGaNモデルとメーカー提供のLTspiceモデルを使用して、スイッチング速度や損失のシミュレーション結果を比較してみたいと思います。
Scideamの回路モデルはサンプルもございますので、ぜひお試しください。
GaN素子と計測回路について
シミュレーションの比較を行うデバイスは、GaN Systems社のGS66508Tです。
まずはスイッチング損失に最も影響を与えるスイッチング速度のシミュレーション結果を比較してみましょう。
GS66508Tのデータシートを確認すると、スイッチング速度の計測は抵抗負荷による一般的な回路で行われているので、LTspiceとScideamそれぞれ図1の回路モデルを作成し、データシートに記載された条件に合わせてGaNデバイスのパラメータを設定します。
シミュレーション波形の比較
続いて、双方のシミュレータでターンオン波形を比較してみます。
スイッチング時間はドレイン・ソース間電圧の10%~90%となる時間を計測するので、その通りにカーソルを合わせるとターンオン時間はLTspiceで2.0ns、Scideamでは2.97nsです。
同様にターンオフ時間を計測すると、LTspiceは6.90ns、Scideamは6.70nsでした。
双方のスイッチング時の波形はほぼ一致しており、スイッチング速度については、ターンオン時間に約1nsの差がありますが、ターンオフ時間についてはよく一致しています。
データシートとの比較
次に、データシートのスイッチング速度との整合性を確認してみます。
データシートのターンオン時間Trは3.7ns、ターンオフ時間Tfは5.2nsで、まとめると表1のようになります。
ターンオン時間については、データシートが3.7ns、LTspiceが2ns、Scideamは2.97nsなので、データシートと比較すると、LTspiceは46%早く、Scideamは20%早い結果となります。一方のターンオフ時間は双方とも30%前後遅い結果となりました。
【表1】 データシートとのスイッチング速度の比較
【表1-a】 LTspice解析結果
項目 | DataSheet (ns) | 時間(ns) | 時間差(ns) | 誤差(%) |
Tr | 3.7 | 2 | -1.7 | -46 |
Tf | 5.2 | 6.9 | 1.7 | 33 |
【表1-b】 Scideam解析結果
項目 | DataSheet (ns) | 時間(ns) | 時間差(ns) | 誤差(%) |
Tr | 3.7 | 2.97 | -0.73 | -20 |
Tf | 5.2 | 6.7 | 1.5 | 29 |
データシート値との誤差は、nsオーダーの微小な時間であることや、カーソルを正確にあわせるにも限界があることを考えると、双方のシミュレータともまずまずの結果と言えます。
本連載記事で使用するサンプル回路をダウンロード可能です。
是非ご利用ください。
回路モデルは「SwitchingTimeTest_GS66508T.scicir」です。
本モデルは、パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で動作可能です。
本記事のモデルは以下からダウンロードしてください。
まとめ
今回はGaN Systems社のGS66508Tを対象に、LTspiceとScideamそれぞれでデータシートと同条件の回路を作成し、スイッチング波形のシミュレーション結果を比較しました。
双方の波形はほぼ一致しており、両モデルは同等であることが確認できました。
スイッチング速度をデータシート値と比較した場合、やはり、多少の誤差が含まれることはやむを得ませんが、実際のデバイスを再現できていることが確認でき、このGaNデバイスに関してはLTspiceよりScideamの方がデータシート値に近いことも分かりました。
次回はダブルパルス試験回路モデルを作成し、スイッチング損失のシミュレーションについて比較したいと思います。
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