バッテリーの等価回路モデル
バッテリーは、充放電を行ったり、残量によって電圧が変わったりしますが、そのモデルはどのように考えたらよいでしょうか。
この記事では、コンバータ制御設計に必要な、バッテリーモデルについて考えていきたいと思います。
最終的には下図のようなものを作ります。
それでは、参りましょう。
目次
バッテリーモデルの目的は何か
「バッテリーのモデルを作りたい」と思った場合、何を考えたらよいでしょうか。
つまり、バッテリーのどの部分をモデルで表現したいでしょうか。
考えるべきは、必要なバッテリーモデルは、コンバータに対してのモデルなのか、それとも、充放電の電力収支についてのモデルなのかです。
もっと言えば、数ミリ秒の応答を見たいのか、数時間の応答を見たいのかということで、作るモデルを分けるべきです。
どんなモデルでも、目的に合わせて機能を抽出して、モデリングします。
この場合も同様に、シミュレーションしたいことに対して、どちらのモデルを作るべきか切り分けましょう。
全部入りのモデルなんて必要ありません。
全部入りのモデルは、一見いいように思えますが、解析に不要なものをいろいろと含んでいますので、ただただシミュレーション時間がかかりますし、結局何のモデルか分からなくなります。
極端な例ですが、自動車が道路を走るというシミュレーションをするのに、エンジンの中のピストンの動きとガスの噴出と着火と炎の動きのモデルなんかはいらないわけです。
エンジンがあって、タイヤが回ればいいかもしれません。下手すれば、エンジン無しでタイヤを回しても解析対象によっては許されるのです。
目的が大事。
というわけで、この記事ではコンバータ制御設計の解析に必要なバッテリーモデルに的を絞って考えていきたいと思います。
コンバータに対してのバッテリーモデルは何が必要?
コンバータに接続するバッテリーモデルは、どうあるべきでしょう。
解析したいコンバータの特性にもよりますが、ほとんどの場合、以下の3つ程の特性をもっていれば良いのではないでしょうか。
- 充放電ができる
- 内部抵抗がある
- 内部インピーダンスがある
上記は、三段階になっており、1から順にだんだん要素の多いモデルとなっていきます。
ここで、「あれ?バッテリー残量は?」と思った方、鋭いですね。
バッテリーは、残量によって、開放電圧が変わります。
なので、充放電の状況によって残量が変化して、電圧が変化するモデルを~
と思ってしまった方、
早まってはいけません。
これが全部入りモデルへの道になります。
この道は引き返しましょう。
なぜかというと、解析したい時間軸があまりにも違うからです。
コンバータの解析は、ミリ秒、マイクロ秒という単位をシミュレーションします。
一方、残量のシミュレーションは、分、時間、という単位です。
ですので、残量のシミュレーションではなく、例えば100%のときの特性、50%のときの特性、0%近くの特性などのように、分けて解析してしまえばよいでしょう。
充放電するだけのバッテリーモデル
以上です。
電圧源にバッテリーと名前を付ければ完成です。
「え?」と思った方、
でもよく考えてください。
これは、「1.充放電できる」という機能を十分に有しています。
それでは次に行きましょう。
内部抵抗があるバッテリーモデル
以上です。
文字通り内部抵抗です。
コンバータ制御にとっては、充電や放電によって電圧が高くなったり低くなったりするだけでも十分役に立ちます。
さて、この内部抵抗、何オームにしましょうか。
実はここが一番難しいところです。
リチウムイオン電池であれば、もちろん並列数や直列数に依存しますが、数ミリΩ程度を入れておけばよいでしょう。
内部インピーダンスがあるモデル
さて、内部インピーダンスがあるモデルです。
バッテリーの周波数特性に影響を与える化学反応として、
充放電が行われる事でバッテリーの金属と溶液界面で起こる電荷の移動によって生じる応答特性と、溶液内での物質の拡散によって生じる応答特性があります。[1][2]
これらの挙動をどのように等価回路で表現するかは、様々な文献で示されています。[3]
特にリチウムイオン電池の場合、100Hz前後、あるいはそれ以上のところに応答特性があるようです。これらの特性はコンバータ設計で無視してもよいのでしょうか。
このモデルを、パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で解析すると、バッテリーモデルのインピーダンスは以下のようになります。
モデルによっては、もっと多くの次数で表現するモデルを作成している場合もありますが、ここでは、二次程度で、特に影響を与えそうな範囲だけで良いのではないでしょうか。
しかしながら、この等価回路モデルは、ゲインが-60dB以下であるため、コンバータの応答に対してはほとんど影響を与えないでしょう。
サイディームモデルでは、文献[1]、[2]を参考におおよそ、リチウムイオン電池の特性として良さそうな値を入力しています。モデルは本文下からダウンロードしてください。
ここで回路図中、VAS1はBode線図を取得するために必要な微小信号発生器です。
Bode線図は左図の様に設定し取得してください。
・FRA開始時間
・最小周波数
・最大周波数
の設定が適切でないと正しい値が取得できません。
まとめ
バッテリーのシミュレーションモデルについて考えてきました。
分析対象に合わせて、必要なモデルを検討し、上手にシミュレーションしましょう。
いきなり、内部インピーダンスつきのモデルでやってもいいですが、ただの電圧源で動かしてから、だんだんとモデルを複雑にしていくことをお勧めします。
そもそも、電圧源だけで動かして、期待通りに動かす事ができなければ、内部インピーダンスをつけたところで恐らく動きません。
急がば回れです。一歩一歩モデルも複雑にしていきましょう。
また、このようなモデルで最も難しいのは、等価回路よりも、そのパラメータ同定です。
その方法は各分野、さまざまな方が、いろいろなチャレンジをしています。
是非、多くの文献を読んで、得たいパラメータを同定して下さい。
本モデルは、パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で動作可能です。
本記事のモデルは以下からダウンロードしてください。
参考文献
[1]片山 英樹 (2014) 電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析, 日本金属学会誌, 第78巻 第11号, 419-425
[2]馬場 厚志 (2013) モデルに基づくリチウムイオン二次電池の充電率推定に関する研究
[3]自動車用電力マネジメント調査専門委員会 (2012) 自動車用電力マネジメント技術, 電気学会技術報告, 第1268号, 48-55